相続なんでも相談センター
振り返ってみると、私が親の終活を意識したのは、28歳の時でした。しかし、その時は、「終活」という言葉はありませんでしたので、意識して親の終活を考えたというわけではありません。
私が28歳の時、父の糖尿病が悪化し、入院することとなりました。その時、母から一本の電話。
「お父さんが入院したから帰ってきてほしい」。
その言葉は「お見舞いに帰ってほしい」というよりも、「実家に帰ってきてほしい」という言葉に聞こえました。当時、私は東京で仕事をしており、実家は広島で商売をしていました。その父の商売を継いでほしい、それが母の電話だったような気がします。
母はそこまで、はっきりとは言いませんでしたし、私の事情も考えてくれていたとは思います。そのため、ただ「帰ってきてほしい」という言葉だったのだと思います。その後、父の病気は悪化していき、入退院を繰り返しました。
終活は早い方がいい。私がそう感じるのは、私自身の経験からです。当時の私は、何も考える余裕はなく、ただ目の前のことに必死であり、父の病気のこと、実家の商売のこと、父に万が一のことがあったときにはどうするのか?懸命にやっているものの、場当たり的だったことは否めません。
その後、父は他界しました。実家の商売は私が継いだものの、ある問題が残りました。それは土地と家の問題です。実家は父と母と祖母がともに暮らしていました。家は父の名義、土地は祖母の名義です。父が亡くなったとき、家は母の名義、土地は祖母の名義となったのです。父には妹(私にとっての叔母)がいました。もし、祖母に万が一のことがあれば、民法通りの相続であれば、祖母の土地の相続は叔母1/2、私1/4、私の妹1/4となります。
私の母には相続権がないので、残された母と祖母が同居している間はお互いの土地と家なわけですが、祖母が亡くなったら、法定相続通りの場合1/2は叔母のものなってしまいます。
この相続問題を孕んだのは、父が亡くなって相続が発生した時です。しかし、それが顕在化するのは、祖母が亡くなる時。この時間のギャップが終活や相続の問題の複雑なものにしてしまいます。
相続問題は「発生した時は遅い」のです。しかし、発生する直前まで緊急性は生まれてこないのです。
そのころの私は、そこまで知識がありません。一時、祖母に遺言を書いてもらうように言って、「適当な」メモみたいなものを書いてもらったりもしました。しかし、それは無効なものです。今、思うと、恥ずかしい限り。
祖母が亡くなったとき、「もしも、叔母が自分の権利を主張して、土地の1/2は私のもの」と言ったらどうしようと、とても心配でした。もちろん、権利ですから、その方が正当です。しかし、母が住み続けている家の下の土地ですから、何とか叔母に譲歩してほしいとの願いです。
これも相続問題の勝手な言い分です。父が長男、その父の長男の私が相続するのが本家筋として当たり前、そんな気持ちがどこかであるのです。しかし、それは勝手な自己都合。法定相続はそうではありません。その法定通りではない、自己の都合をお願いするにもかかわらず、自己の勝手な言い分も持っているのです。
叔母が理解を示してくれたおかげで、実家の土地は私が相続することになりました。しかし、相続の問題は単純ではありません。家系のこと、これまでの経緯、さらには感情のもつれ。今でこそ、私の勝手な都合を叔母が受け入れてくれたことへ感謝ができるようになりましたが、その時は、少なからず、自分の正しさを思っていました。
その後、母もがんが発見され、闘病の末、亡くなりました。しかし、母の病がわかったときは、終活についても、相続についても、何もかもやり切ったという想いはあります。緩和ケア、ホスピス、母との時間を精一杯過ごすことができたと思います。そして、遺言を書いてくれ、相続が揉めないようにと手を打ってくれました。それは、私にとって、三度目にしてようやくたどりついた後悔のない終活、そして相続でした。この一般社団法人相続なんでも相談センターは、そんな私の個人的な想いが多分に込められたセンターです。私自身も悩んで、困った問題。そんな終活、相続の問題を解決するお手伝いをしていくことが、当センターの願いです。
私たち相続なんでも相談センターは、本当に「なんでも」相談をしてほしいと願っています。終活や相続について、何もかも知っている人はいません。どんなことでも、その方にとっては大切で、重要な問題が多々あります。「どんな問題でも」相談に乗れるセンターとして、これからも一人でも多くの人の助けになっていきたいと願っています。
代表理事 宮野宏樹
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