【事業承継】親族、社内以外への事業承継~M&A等~
2022/06/08
目次
【取引先に事業を承継してもらう方法等】
親族にも、社内にも事業のバトンを受け継いでくれる者がいない場合には、社外に承継先を探すことになります。
日本では、取引のある金融機関から後継者となる人材の紹介を受ける、あるいは、取引先から人材を招き入れるなどの方法も考えられます。古くからの付き合いのある取引先の役員を、自社の役員(後継者候補)として招聘し、事業を承継してもらうということも、中小企業では、行われることがあります。
上記のように紹介を受けるという方法のほか、取引先に対し「M&A」という方法で、自社の事業を承継させる(事業を売却することによる引き継ぎ)、という方法もあります。なお、以下は株式会社を前提として説明します。
【取引先に承継してもらう場合の特徴を理解しよう!】
金融機関や取引先から人材を招聘する場合のメリットとしては、代表取締役社長が交代しても、当該金融機関や取引先との信頼関係は維持することができることです。
しかし、社内に基盤の無い人物を招聘するということは、もともとの社内の役員や従業員からの反発が予想されます。感情的にも複雑になってしまうことが多く、中堅社員が辞めてしまうこと等もあり、招聘する人物の人柄、適性等も十分に考慮して推し進める必要があります。
加えて、招聘者は、社内事情に精通しているわけではないので、後継者として育成するために、相応の時間をかけないといけません。新社長になった途端、企業の雰囲気が変わってしまうという事態にもなりかねないためです。
また、代表取締役としての「地位」を承継することで「経営」は引き継ぐことができますが、株式を移転しないと、所有と経営が完全に分離してしまいます。株式を引き継がせる方法として一般的な方法は、株式を買い取ってもらうことですが、取引先からの招聘者に充分な資金があるかという問題もあります(この点は、従業員が会社を承継する場合のデメリットと同様の問題が生じます)。
他方、後継者を紹介して貰うという方法ではなく、M&Aの方法によって、自社の事業を取引先に承継してもらうということも考えられます。M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略で、「合併と買収」という意味になります。株式を買い取ったり、合併したり、事業譲渡を受けたりといった手法によって、「別の会社の事業を取得すること」を指しています。取引先による場合でも自社以外の会社による買収であることは同じですので、その特徴等は次節を参照してください。M&Aの方法は複数考えられますが、いずれにしても最終的には、事業の価値を調査・評価した結果をもとに、交渉によって事業の売却価格を決めていくことになります。
【取引先とのM&Aについては、情報が漏れないように慎重に!】
取引先からの招聘者に事業を承継させる場合には、従業員への承継と同じように、株式の譲渡方法をよく考える必要があります。
取引先とのM&Aは、当該取引先が、自社の技術力の高さを十分に知っていてくれるという点でメリットがあります。他方、日ごろから付き合いがあるため、売却交渉が強気に望みにくいというデメリットがあります。また、本来、事業の詳細な内容は「秘密保持契約」等を締結して外部に漏らさないように約束を交わした上で開示し、売却への手続きを進めるべきところ、仲間意識だけで話を進め、他の取引先や金融機関等に会社の売却を進めているという話が漏れて不安感や混乱を煽ってしまう状況がしばしば起こります。仮に古くからの取引先との交渉の場合であっても(古くからの取引先であるからこそ)、交渉には専門家を入れたり、少なくとも、秘密保持契約は締結して、重要な情報を開示することが必要です。
【同業他社に事業を承継してもらう方法】
社内に事業のバトンを受け継いでくれる者がいない場合には、社外に承継先を探すことになります。ここで用いられる方法が、「M&A」になりますが、M&Aという言葉は聞いたことがあるけれど、よくわからないという声をよく聞きます。
M&Aとは、株式を買い取ったり、合併したり、事業譲渡を受けたりといった手法によって、「別の会社の事業を取得すること」を指します。
M&Aによって自社の事業を別会社に取得、要するに買い取ってもらう場合、有力な同業他社(いわばライバル企業)は、それは最適な「候補」となり得ます。候補先企業にしてみれば、特に主たるエリアが異なるのであれば、新たな地域における市場を獲得することになり、しかも、新しい市場を開拓するためのコストも削減することができるからです。
【M&Aの方法と特徴を理解しよう】
●M&Aの特徴とは
M&Aによる承継のメリット・デメリットについて簡単に説明します。まず、メリットとしては次の点があげられます。
①「親族」といった狭い範囲ではなく、広い範囲から、実績や意欲のある第三者を選ぶこともできるため、適切な買い手を選べば、後継者教育も不要であるし、事業の更なる発展・継続性が強く期待できること。
②事業の承継を巡る、相続人間の紛争が生じにくいこと。事業を買い取ってもらった対価を遺産として相続人に残すことになりますので、相続人間での分配が比較的しやすくなります(親族内承継では、株式を長男に引き継がせた場合、遺留分侵害請求等が生じてしまうことになりかねません)。
③事業を売却したことにより金銭的対価を取得し、現経営者の負債を完済することも可能であること。
デメリットは、大きく言って、次のとおりです。
①買い手にとり魅力ある会社ではないと、買い手を見つけることが困難であること。
②(M&Aの形態にもよるが)現経営者にとって、リタイアによる喪失感が大きいこと。
●M&Aの方法には、どのようなものがあるのか?
M&Aには大別して、以下があります。
①株式の売却:現経営者の保有している株式を、他社に売却する方法。
②株式の交換:自社の株式を、他社に取得させ、自社を当該会社の完全子会社とし、対価としてその他社の株式等を取得する方法(ただし、現金で受け取ることも可能)。
③会社の分割、合併:会社分割とは会社の事業とそれに伴う権利義務の全部または一部を引き継ぐ手法です。合併とは2つの会社が新しく会社を設立して共同で事業を行う場合や、ある会社を別会社に吸収させたい場合などに利用されます。合併では「会社全体」が承継されますが、会社分割の場合には他会社に「事業単位」で引き継がせるという違いがあります。
④事業譲渡:会社の事業を売却(譲渡)する方法。会社の一部の事業だけを譲渡することが可能であり、あるいは、債務を譲渡の範囲から切り離す等、契約で譲渡の範囲を定めて行います。
事業承継におけるM&Aでは、会社の一部を譲渡することよりも、「全部」を譲渡することが理想です。従って、方法としては株式譲渡、合併といった方法が有用になりますが、中でも一般的に用いられているのは株式譲渡です。これは、手続が比較的単純で用いやすいこと、株式を売る現経営者には、「売却代金」として、まとまった金員が入るというメリットによります。
他方、M&Aの買主において、「会社全体の譲渡では負債が多く受けられない、業績の良い事業部門だけであれば欲しい」という場合においては事業譲渡といった方法を検討することになります。
【会社の価値を上げて、早期に買収企業を探していこう!」
第三者に事業を承継(売却)すると決めたのであれば、早期に仲介業者等に相談をし、売却先を探していくことになります。もちろん、既に自社に対して関心を示している企業があるのであれば、売却先の有力な候補になります。
しかし、結局、売却価格は、専門家による対象企業の価値の調査及び評価(「デューデリジェンス)と言います)を踏まえ、交渉によって価格を決定することになります。ですので、M&Aの方針を決定したのであれば、会社の価値を高めることが価格を上げるためにも有用であり、経営改善が一層必要になってきます(これを「磨き上げ」と言います)。
具体的には、業績の改善や、優良な顧客の開拓に一層努めること、優秀な人材を育てること、経営・営業上のノウハウの更なる構築、従業員の労働環境や、コンプライアンス(法令遵守)体制の構築を図っていくことが必要になってきます。公認会計士や弁護士等の専門家を交え、より良いM&Aに向けた体制作りが必要です。
この記事は事業承継を考えている人、又は事業承継の対策を考えている人のために、参考になればと書かれています。事業承継について、ご質問、ご相談があれば、お気軽に「事業承継について教えて欲しい」とご連絡ください。「事業承継」のアドバイザーがお答えします。あなたの大切な「事業承継」をより良き「事業承継」にしていただくために、事業承継のアドバイスさせていただきます!