事業継承とは何なのか「事象継承の種類、親族内継承のメリットデメリット」
2020/12/07
目次
【事業承継には様々な選択肢がある】
中小企業の事業承継というと親から子へ、子から孫へといった親族内での承継が多数派ですが、事業の引継ぎ先は必ずしも親族だけではありません。
自社の役員や従業員のほか、外部の第三者に事業を引き継いでもらうケースも多くなってきています。昔とは違う事業承継が行われるケースは確実に増えています。
【事業承継先の3つのパターン】
承継先は3つのパターン「親族内承継」「従業員への承継」「第三者へ承継」
これまでの日本の中小企業は、親族(特に子ども)への承継が最も多いパターンでした。今も、この親族内での事業承継は一番多いパターンです。
その親族後継者に経営者としての資質があれば従業員、取引先、取引金融機関等利害関係者の共感も得られやすいでしょう。ただ、後継者以外の親族とのバランスが難しい場合があります。資産の多くを引き継ぐことになるために、他の親族の納得が困難であったり、相続税や贈与税などの納税資金が不足するというケースもあります。
また、そもそも親族内に適任者がいないというケースもあります。親族内に適任者がいない場合には、自社の従業員の中から後継者にふさわしい人材を探すこともあります。自社の事業内容に精通しており、取引先との人間関係もできているため実務面での活躍は期待できるでしょう。
この従業員への承継の場合、経営権を完全に移譲するためには自社株式の大半を後継者に保有させる必要がありますが、自社株式の買い取り資金の調達が課題になるケースがあります。また、経営者が銀行からの借入に個人保証(連帯保証)をしている場合には、一般的にはその個人保証も引き継ぐことになりますので、そこまでのリスクを負う覚悟があるのかという点も課題になります。
事業譲渡や自社株式の譲渡により、取引先や同業他社等に事業を承継してもらうケースもあります。既存の第三者と合流する形式になりますので、単に事業が継続されるだけでなく、買主側の企業とのシナジー効果が見込まれ、従前にはなかった新たな企業価値が生まれる可能性もあります。
また、現経営者にとっては引退後の生活資金を現金で早期に手に入れることができます。相談窓口には、国の運営する「事業引継ぎ支援センター」の他、民間のM&A仲介会社等も多くあるため、自社の状況に合わせた相談・依頼先を選定しましょう。
引継ぎ先の候補が見つかった場合には、具体的にいくらで事業(または自社株式)を売買するのかを決める必要がありますが、その際には公認会計士等の専門家に企業価値の評価を依頼することになります。
【従業員や第三者への承継が増加している!】
後継者不足を背景に、近年では親族内での事業承継の割合が減少してきており、反対に従業員や第三者への承継が増加してきています。みずほ総合研究所(株)が2015年に行った調査によると、経営者の在任期間が短くなるほど親族以外の役員・従業員や社外の第三者への承継する割合が多くなってきており、在任期間が10年未満の企業では半数以上の会社での親族外の後継者への事業承継が行われています。
【親族内承継とは】
親族内承継とは、「親族」という言葉とおり、現在の経営者の子ども、娘婿、といった親族に事業を譲ることを指します。
「親族」という言葉は、法律用語で、正確には、「6親等の血族、配偶者、3親等内の姻族」(民法725条)を指します。民法で定める「親族」を事業承継の場合は、正確にいっているわけではありませんが、念の為、民法で定める「親族」を見てみましょう。
日本の民法は6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族を「親族」として定める。
◎6親等以内の血族
1.父母、子
2.祖父母、孫、兄弟姉妹
3.曽祖父母、曽孫、叔父叔母、甥姪
4.高祖父母玄孫、兄弟姉妹の孫(姪孫、大甥・大姪)、従兄弟姉妹(いとこ)、祖父母の兄弟姉妹(大おじ・大おば)
5.五世の祖、来孫、兄弟姉妹の曽孫(曽姪孫)、従兄弟姉妹の子(従甥・従姪)、父母の従兄弟姉妹( 従伯叔父母)、曽祖父母の兄弟姉妹(曽祖伯叔父母)
6.六世の祖、昆孫、兄弟姉妹の玄孫(玄姪孫)、再従兄弟姉妹(はとこ)、従兄弟姉妹の孫(従姪孫)、祖父母の従兄弟姉妹(従大伯叔父母)、高祖父母の兄弟姉妹(高祖伯叔父母)
◎配偶者
◎3親等以内の姻族
1.配偶者の父母(舅・姑)、父母の再婚相手(継父母)、子の配偶者(嫁・婿)、配偶者の子(配偶者の前婚における子など)
2.配偶者の祖父母、祖父母の再婚相手(父母の継父母)、継父母の父母、配偶者の兄弟姉妹(小舅・小姑)、兄弟姉妹の配偶者(兄嫁・姉婿・弟嫁・妹婿)、継父母の子、孫の配偶者、配偶者の孫(配偶者の前婚における孫など)、子の配偶者の子(子の配偶者の前婚における子など)
3.配偶者の曽祖父母、曾祖父母の再婚相手(祖父母の継父母)、祖父母の再婚相手の父母、継父母の祖父母、配偶者の伯叔父母(舅・姑の兄弟姉妹)、伯叔父母の配偶者(おじ嫁・おば婿)、継父母の兄弟姉妹、祖父母の再婚相手の子、配偶者の甥姪、甥姪の配偶者、兄弟姉妹の配偶者の子(前婚における子など)、継父母の孫、曽孫の配偶者、配偶者の曽孫(配偶者の前婚における曽孫など)、子の配偶者の孫(前婚における孫など)、孫の配偶者の子(前婚における子など)
非常に複雑です。事業承継の場合は、ここまで厳密ではなく、「こどもや身内」くらいの意味で使われていることが多いです。
事業承継の場合に、親族が問題になるのは「相続人」が後継者なのかどうかです。たとえば、息子は相続人として、事業を承継しますが、娘婿になると、相続はない後継者となります。これらの場合には、事業承継にとって必要なことが異なってきます。
親族内承継は減ってはいるものの、まだまだ日本では主流の事業承継ではあります。
【親族内承継の方法と特徴、メリット、デメリット】
親族内承継の方法と特徴を理解しよう
親族内承継のメリットやデメリットについて考えてみます。
親族内承継のメリットは、現在の経営者に近しい者が引き継ぐことになりますので、社内外の関係者から、後継者として理解を得やすい方法といえるでしょう。これまでの日本において、最も一般的な承継の方法であり、息子が後を継ぐというケースが最も多い承継の姿でした。
この親族内承継の場合のもう一つのメリットは、代表取締役という取締役会の代表者がそのまま自社の株式を引き継ぐ株主となる場合がほとんどで、所有と経営が分離せず一体となっており、中小企業の事業承継をスムーズにしてきました。
一方、デメリットとして、
1)親族内に、後継者となる意思、その資質を有する人物がいない場合があること
2)後継者一人に経営を集中させるにあたり、親族間に対立を招きやすいといえます。
例えば、1)の例として、息子が後を継がないというケースなどは典型例です。あるいは、息子が後を継いだものの、本来のやりたかったことをあきらめて後継者となり、事業の繁栄に至らなかったなどもあり得ます。
2)の例としては、兄弟間での対立が起こる、あるいは古参の社員との関係がうまくいかないなどがあるでしょう。
親族内承継の方法にはどのようなものがあるのか?についても考えてみます。
親族へ承継させるには、①相続による承継、②生前贈与による承継、③その他の承継が考えられます。ここでは①、②を簡単に見てみます。
①相続による承継
「相続による承継」とは、現経営者の死亡のときに、相談として、後継者への承継が行われる方法です。対策としては、現経営者の遺言書の作成があり、遺言書があれば、よりスムーズに承継が終わります。
売買等による承継等の場合に比較して、株式の取得又は、事業用資産の取得のため資金の準備が少なくて済むという利点があります。
②「生前贈与による承継」
「生前贈与による承継」とは、現経営者の生前に、後継者に株式等を贈与することで、後継者への承継が行われる方法です。生前贈与の場合は、後継者が早期の段階で経営判断に加わることができるようになりますし、作成者が自由に撤回することができてしまう遺言と比べて、後継者の地位が安定するという利点があります。
現状、長男などに後継者が定まれば、生前の段階で、株式を贈与しておく経営者が多く見られます。
方法を知り話し合うことが重要。タイミングも大事になる
親族内承継には、上記のような方法がありますが、どの方法であっても、一朝一夕に経営者になれるわけではありません。もちろん、業種にもよりますが、どのような業種でも経営者になるためには、一般的には5年程度は修行が必要と言われています。古参の従業員の人間関係を構築する必要があります。
相続や生前贈与といった方法を踏まえ、準備期間も必要な点を前提に、親族との協議が必要になります。特に親族への生前贈与の方法が合わせてとられることが多いですが、もし親族が十分に自社の経営について引き継ぐ意思が感じられないのであれば、従業員承継等も考えていかざるを得ないことも起きてきます。
長男に代表取締としての地位(経営)と株式の一部を譲った途端、その会社の事業の一つ(生産性が上がっていた、その会社にとっては重要な事業)を、やる気が無くなって止めてしまい、長男と株主である前社長(父親)・他の子どもとの間で法的紛争になったという事例もままあります。
誰に経営を譲渡するかは、十分に見極める必要があります。特に、生前贈与を行う場合には、遺言のように自由な撤回ができるわけではありません。そのため、後継者のやる気・適性を見極めて、どのタイミングでどの程度の株式を譲渡するのかという点も話す必要があります。