【事業承継】事業承継とは?
2022/04/15
目次
【そもそも事業承継とは?】
このレポートをお読みいただく方の中にはおそらく、ご自身の会社について事業承継の必要性を感じていて、まずはその概要を把握したいという方が多いのではないでしょうか。まずは「そもそも事業承継とは何なのか」を考えてみましょう。
【人生をかけて育ててきた「事業」のバトンタッチ】
事業承継とは文字通り、「事業」を「承継」させるプロジェクトを指しますが、そもそも「事業」とはなんでしょうか?
抽象的な概念ですが、ひとまず「工場・機械設備など有形資産や、株式・特許権など無形資産、さらには取引先との信頼関係やさまざまなノウハウ・情報など財産的な評価が困難なものを会社の役員や従業員が有機的に組み合わせて、社会に新しい価値を提供する一連の活動」と考えればいいでしょう。
多くの創業経営者は、自己資金や親族から借りたお金を資本金として会社を設立するところからスタートして、「事業」に必要な資産を一つずつ調達しながら、取引先や従業員との間の信頼関係を深め、技術力を高め、新たなノウハウを開発して、社会に価値を提供し続けてきたことだと思います。
まさに、「事業」は現経営者が人生をかけて育て上げた子供のように大切なものです。その「事業」を現経営者の手から後継者にバトンタッチして、さらなる成長を促すことが事業承継というプロジェクトです。
経営学の第一人者であるピーター・ドラッカー博士が「事業承継は偉大なる経営者が受けなければならない最後のテストである」という言葉を残している通り、事業承継というプロジェクトは、これまで立ち上げ成功を重ねてきたさまざまなプロジェクトよりも重要性が高く、失敗の許されないプロジェクトだということができます。
【事業承継を契機として新しい成長局面に入る!】
そもそも事業承継をしなくてはいけない理由は「人間とビジネスモデルの寿命の違いにある」とも言われています。残念ながら、最新の医学をもってしても日本人の平均寿命は90歳に至りません。現経営者がどんなに優れた経営手腕を持っていたとしても永遠に経営を続けて社会に価値を提供し続けることはできません。
よく「ビジネスモデルの寿命は30年」などと言われています。30年という数字に経済環境の変化や技術革新のスピードなどさまざまな要素を勘案した答えだと思いますが、奇しくも一人の経営者が心技体整って働ける期間とも重なります。
現経営者が生み出し、苦労を重ねて育て上げてきたビジネスモデルではありますが、ありのままの現状維持では経済環境の変化や技術革新についていけずに陳腐化してしまいます。事業承継を契機として、若い後継者の柔軟な発想とバイタリティにより経営革新を果たし、新しい成長局面に入ることが、事業承継の真の目的と言えるかもしれません。
【後継者に承継すべき経営資源は株式だけではない】
事業承継といえば、まずは後継者に株式を贈与して社長を交代するということが頭に浮かびますが、実際にはそれだけでは会社は回りません。後継者を一人前の経営者に育成し、目に見えない会社の強みを承継することで、はじめて次世代に事業を引き継がせることができるのです。
【後継者に承継すべき経営資源は「人(経営権)」、「資産」、「知的資産」の3つ】
●人(経営権)の承継
人(経営権)の承継とは、後継者への経営権の承継のことをいいます。中小企業は社長で決まると言われますが、経営権を誰に承継させるのかというのは事業承継の中でも核となるテーマです。経営権を承継するためには、まず後継者を選定し、選定した後継者を育成し、その後継者に資産や知的資産を引き継がせるというステップを踏む必要があります。一般的に5年から10年以上はかかります。
●資産の承継
資産の承継とは、事業資金や設備、不動産など事業運営に必要不可欠な資産を後継者に承継させることをいいます。個人事業主の場合は個別の資産ごとに贈与や譲渡により承継させることになりますが、法人形態の場合は自社株式を承継させることで、会社の資産として包括的にこれらの承継ができます。
資産の承継には所得税(譲渡所得税や相続税、贈与税などの税負担が伴いますので、税理士の専門家に相談して税負担を軽減するスキームを検討することで承継がスムーズに運びます。
●知的資産の承継
知的資産とは、取引先とのコネクション、組織力、会社のブランド、特殊技術や経営ノウハウといった、競争力の根源となっている会社の強みです。厳しい企業競争の中で生き残っている会社には、必ずその会社特有の知的資産がありますが、目に見えない経営資源であるため、承継すべき経営資源として見落とされがちです。
まずは、現経営者自身が「自分の会社の強みは何なのか」、「成功の秘訣は何だったのかを見極め、その知的資産を後継者に伝承して、さらに磨きをかけてもらうのです。
【知的資産の「見える化」が事業承継の成功の鍵になる!】
見込みのある後継者が見つかり自社株式を承継させても、知的資産の承継に失敗すれば「仏作って魂入れず」になってしまいます。
知的資産は目に見えず決算書にも表示されていません。現経営者自身もうまく言葉で表現できていないということも珍しくありません。まずは知的資産を見える化して、次にそれを後継者に伝承するというステップを踏む必要があります。
知的資産の見える化にあたっては、「事業価値を高める経営レポート」(https://www.smrj.go.jp/tool/supporter/soft_asset1/index.html)を活用したり、外部の専門家の支援を受けたりすることで、自分自身でも気が付いていなかった意外な強みを再認識できることもあります。
【事業承継のタイミングは年々遅くなってきている】
帝国データバンクの「全国社長年齢分析」によると、社長の平均年齢は年々上昇し続けており、70歳以上で現役の社長も珍しくありません。その一方、全国の後継者不在率は2020年時点で65.1%(「全国企業『後継者不在率』動向調査(2020年)」帝国データバンク、2020年11月発表)と依然高水準であり、事業承継への備えが追いついていない現状もうかがえます。
2020年の社長の平均年齢は60.1歳(前年比+0.2歳)と、調査を開始した1990年以降初めて60歳を超え、過去最高を更新しました。年代別の割合をみると、「60代」が構成比27.3%を占め最多、「50代」が同26.9%、「70代」が同20.3%で続く。上場企業社長の平均年齢は58.7歳(前年比±0.0歳)、年代別では「60代」が構成比43.3%を占め最多となっています。
(出典:帝国データバンク「全国社長年齢分析」より:https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p210202.pdf
【国も事業承継を応援している!】
2016年のデータによると、中小企業は日本の企業の99.7%を占め、労働者の70%以上は中小企業に勤務しています。まさに、中小企業は日本社会を支えている存在であり、中小企業の事業が承継されず、廃業が増えてしまうと日本社会の基盤に大きなダメージがあります。
そこで、中小企業庁をはじめとする国の各機関は中小企業の事業承継を後押しするために、様々な支援をしています。また、このような背景のもと、事業承継に社会の注目が集まっていることもあり、弁護士や公認会計士・税理士、中小企業診断士などの各専門家の中にも事業承継支援に注力している専門家が増えてきています。