【相続】遺言書は相続トラブル回避の切り札となる
2023/07/13
目次
【相続でもめる要素が時代とともに増えてきた】
家族が互いに思いやりを持ち続け、意思の疎通をしっかりやっていれば相続に問題は起きません。しかし、現実を見ると当たり前のように相続トラブルが発生し、年々増加しています。
もちろん相続トラブルは昔からありますが、これまでも述べたように、時代の移り変わりとともに相続でもめる要素が増えてきたという背景があります。
ひとつには、伝統的な長兄相続が崩れてきたことがあります。昭和22年(1947年)までは、「家督相続」といって、家の主である戸主が亡くなると長男が財産のすべてを引き継ぐということが法律上の制度としてあったのです。
そのため、遺産の分配を巡って法律的に争うということはありませんでした。長男は遺産を独り占めできる代わりに、兄弟姉妹の面倒を見る義務がありました。
現在では、遺産は相続人で分け合うものだということが法的にも保障されており、遺産分割の法的ルールも定められています。
一方で、家族の構成も核家族化が進んだことによって、「長男だから」「先祖代々の家」といった意識も変化してきています。家より個を重んじるようになったのです。それでも家を意識する流れは今も残っており、特に長男は「長男だから自分が差配するのが許される」と考えることも多くあります。これだけで、当然のごとく他の兄弟姉妹とトラブルが勃発します。
次に、個人が尊重される時代になったことで、人々の権利意識が高まりました。情報化社会が進んだことで、情報も簡単に得られるようになりました。
雑誌、テレビでも相続に関する記事や特集があふれています。権利意識の高まりと情報の入手しやすさにより、相続時に言いなりにならず、自分の主張をはっきりと述べるようになったのです。
3つ目に、失われた30年とも呼ばれる長引く不況が相続にも影を落としています。一般の人にとって、以前は相続財産は収入として予定するものではなく、相続時に予想外の収入として受け取っていました。しかし、生活を支える必須の資金として相続財産に期待するようになりました。そのため、自分の相続持分を真剣に主張して求めるようになってきています。
【相続トラブルを回避する遺言書の書き方】
こうした現代の相続トラブルを避けるための切り札になるのが遺言書です。一般的に遺言書が切り札となるのは次のような場合です。
・配偶者に多く財産を相続させたい
・世話になった子供に貢献度に合わせた相続をさせたい
・先妻との間に子供がいる
・現金が少額で主な財産が不動産
遺言書の書き方の例と基本的な注意点は、次の図のようになりますが、作成方法と押さえるべきポイントは次の5つになります。
①法的に有効な遺言書であること
②財産目録をつくる
③遺留分に気をつける
④付言事項を必ず付け加えること
⑤公正証書遺言か自筆証書遺言か
④の付言事項は非常に重要ですので、必ず入れるようにします。内容は主に遺産の増減理由です。遺産を増やす理由と減らす理由を明確にしておくことが、もめないための遺言書としてのポイントだからです。納得する理由が書いてあれば、遺留分を侵害するものであっても争いを回避することができます。
【欧米では遺言書を書くのが当たり前】
日本では、遺言書を書くのはまだごく少数ですが、欧米では遺言書を書くのが普通です。正確な統計はありませんが、日本では遺言書を書く人は1割もいないと思われます。一方でアメリカでは60~70%ともいわれます。
アメリカの場合、相続手続きは日本とかなり違います。配偶者が亡くなった場合、まず夫婦の財産の処理が行われます。日本のように故人(被相続人)の財産がいったんすべての相続人の共有財産となるのではありません。先に相続人の配偶者が自分の取り分を受け、残りの財産が相続財産となります。例えば、夫の死亡で夫婦の共有財産が1000万円あって、妻の取り分が200万円だった場合、1000万円から200万円を差し引いた800万円が相続財産として妻を含めた残りの相続人全員で分け合います。
相続財産の分配については、一定の条件を備えた遺言書があれば、その遺言書に沿って手続きが進められることになりますが、遺言書の有無にかかわらず、検認裁判(プロベート:Probate)という裁判所の監視下で行われる遺産分割相続手続きが原則として必要となります。
特に遺言書がない場合の検認裁判は、手続きが非常に面倒で費用や時間がかかるため、相続人にとって大きな負担となります。相続財産の分配に数カ月から数年がかかり、その間の生活に困窮する場合があるので、習慣として遺言書をつくる面もあります。このように、検認裁判をスムーズに進めるために、生きているうちにきちんと遺言を残したり信託財産にしたりすることが多く行われています。
アメリカの遺言書には、ウィル(Will:日本の一般的な遺言書にあたる)、リビングトラスト(LivingTrust)といった種類があります。特に、リビングトラストは相続財産を信託財産の形にしておくもので、検認裁判を回避することができます。なお、日本で作成された遺言書はアメリカでるは法的効力を持ちません。
そのほかにも日米の違いはいくつかあります。アメリカでは故人の意思を何よりも尊重するので、遺言より優先され日本のような遺留分はありません。また、相続手続きは州法によって決められているので、州によって相続人の順位や取り分はかなり違っています。
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