【終活】認知症対策としての家族信託と成年後見
2023/12/11
目次
【家族信託と成年後見】
個人が築いた財産を守り、どのように管理・運用するかを本人の願いに基づいて決めることができるのが、家族信託です。 相続や高齢者の財産管理の対策としては、他にも成年後見制度や遺言書がありますが、家族信託ではこれらでは対応しきれない多様なニーズに応えることが可能です。 認知症や脳の障害などにより意思能力が不十分になってしまったときには、本人の財産管理のために成年後見制度を利用することもできます。 ただし、この制度は手続きの煩雑さや、裁判所に判断をもらうまでのタイムラグができてしまうこと、また財産を積極的に運用することができないことなどから、使い勝手の悪いものとなっています。 後見制度では、その財産は基本的には本人(財産の持ち主)のために使われることとなっていますが、家族信託においては配偶者や子どもといった家族など、本人以外の人のためにも財産を使うことが可能です。 親が認知症などで介護が必要になってしまうと、本人のために使う介護施設費や生活費などももちろん必要ですが、介護に携わる家族たちの生活も変わってきて、経済的に負担がかかってしまうことも多々あります。こうしたさまざまなケースに対応するには、柔軟性に富んだ家族信託のほうが向いていると言えるでしょう。 ここで、家族信託と成年後見制度の違いについて、まとめておきたいと思います。成年後見制度には、法定後見と任意後見があります。 法定後見は、裁判所が選任した人が本人に代わって財産管理や契約を行うもの。任意後見はあらかじめ「この人にお願いしたい」と後見人を決めておけるものでした。それぞれに特徴がありますので、まとめていきましょう。
【成年後見人ができる仕事、できない仕事】
成年後見制度を使った場合、後見人はどんな仕事をするかということを整理しておきます。次ページの表を見てもらうとわかるとおり、成年後見人の仕事には、財産管理と法律行為、身上監護の3つがあります。
財産管理は、認知症などで意思判断ができなくなった人が日常生活を送るのに必要な入出金の管理をしたり、預貯金などお金以外の土地や建物、有価証券などの管理をしたりすることを指します。預貯金以外の財産の管理には法律上の手続きが必要になることが多いので、法律行為というのも仕事の内容に入ってきます。
意思無能力者となった人が銀行口座を持っていた場合には、銀行に届け出をすることで後見人がその口座からお金を出し入れすることができるようになります。自宅不動産を売却するなどの手続きについては、家庭裁判所に申請をして許可を得ないとできないため、スピーディーに対応することは難しくなります。
また身上監護とは、本人の代わりに介護施設の入居手続きをするなど、本人の生活環境を整えるために行う仕事のことを指します。成年後見制度はあくまでも、意思能力のなくなってしまった人の生活を守るためのも の、本人の利益のためにさまざまな仕事を行うものであり、次のようなことはできません。
•本人の預貯金の中から孫の学費を払う
•本人の預貯金の中から子どもに資金を貸し付ける
•リスクのある金融商品などを買って投資運用する
•子どもの借金のために、本人が持っている不動産に抵当権を設定する
このように、他人のために本人の持っている財産を使い、その結果、財産が減ってしまう可能性のあることについては、成年後見制度ではできないことになっています。
そのため、たとえばマンションなど賃貸不動産を運営している人が認知症になった場合には、後見制度だけではその事業を継続させるのが難しくなる場合があります。大規模な修繕が必要になった場合に、その資金を借り入れすることができなくなるといったケースが出てくるからです。しかしこの場合でも、あらかじめ家族信託によって不動産の管理•運用をする受託者が決まっていれば、受託者が借り入れの契約を行って運用をすることが可能となります。
また、成年後見人は、意思能力のなくなった人の財産の管理や処分を、自分の裁量で決めることができます。そして、実はこのことによるトラブルも多いのです。成年後見人となった人が、本人のためではなく自分の利益のためにお金を使ってしまうことで、トラブルになってしまうことがあるのです。
ただ、このようなリスクを防ぐために、2011 年からは後見制度に信託契約を導入した、後見制度支援信託という仕組みも生まれています。この信託では信託銀行等が受託者となり、後見人は、被後見人の日常生活に必要な金額を超えたお金が簡単には使えないようになります。ただし、任意後見人の場合には適用ができません。制度の違いを理解しておくと、どの制度で対策するかが分かります。