事業継承とは何なのか「事業継承方法、種類、目的」
2020/12/07
目次
【事業承継とは何なのか】
日本は高齢化社会を迎え、経営者の平均年齢も66歳となっています。
そもそも事業承継とは何なのか?からお伝えしていきたいと思います。
【事業継承とは、育ててきた「事業」のバトンタッチ】
事業承継とは文字通り、「事業」を「承継」させるプロジェクトを指します。しかし、難しいのは、そもそも「事業とは何なのか?」という事です。
非常に抽象的な概念になりますが、例えば「工場・機械設備など有形資産や、株式・特許権などの無形資産、さらには取引先との信頼関係やさまざまなノウハウ・情報など財産的な評価が困難なものを会社の役員や従業員が有機的に組み合わせて、社会に新しい価値を提供する一連の活動」と考えられます。
日本においては、多くの創業経営者は、自己資金や親族から借りたお金を資本金として会社を設立するところからスタートして、「事業」に必要な資産を一つずつ調達しながら、取引先や従業員との間の信頼関係を深め、技術力を高め、新たなノウハウを開発して、社会に価値を提供し続けてきたはずです。
経営者にとって、「事業」は人生そのもの、育てた事業は自分の分身のような心情でしょう。
その「事業」を現経営者の手から後継者にバトンタッチして、さらなる成長を促すことが「事業承継」という一大プロジェクトです。
「事業承継は偉大な経営者となるための最後のテストである」とは、P.Fドラッカーの言葉です。経営者にとって、事業承継というプロジェクトは、これまで立ち上げ成功を重ねてきた様々なプロジェクトよりも重要性が高く、失敗の許されないプロジェクトだという事が言えます。
【事業承継を契機として新しい成長局面に入る】
そもそも事業承継をしなくてはならない理由は「人間と企業の寿命にある」からと言われています。
残念ながら、最新の医学をもってしても日本人の平均寿命は90歳に至りません。現経営者がどんなに優れた経営手腕を持っていたとしても、永遠に経営を続けて社会価値を提供し続けることはできません。
最近では、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長の退任劇がありました。あれだけ偉大な経営者であったとしても、最終、事業承継については、思惑通りには行かず、お家騒動といわれる事態になりました。
昔から企業の寿命は30年といわれますが、それは一人の経営者が心技体整って働ける期間とも重なります。30年一世代ということが言えるでしょう。
【後継者に承継すべき経営資源は株式だけではない!】
事業承継といえば、まずは後継者に株式を贈与して社長を交代するということが頭に浮かびますが、実際にはそれだけでは会社は回りません。後継者を一人前の経営者に育成し、目に見えない会社の強みを承継することで、はじめて次世代に事業を引き継がせることができるのです。
後継者に承継すべき経営資源は「人(経営権)」、「資産」、「知的資産」の3つ
・人(経営権)の承継
人(経営権)の承継とは、後継者への経営権の承継のことを言います。中小企業は社長で決まると言われますが、経営権を誰に承継させるのかというのは事業承継の中でも核となるテーマです。
経営権を承継するためには、まず後継者を選定し、選定した後継者を育成し、その後継者に後述する資産や知的資産を引き継がせるというステップを踏む必要があります。一般的に5年から10年以上はかかります。
・資産の承継
資産の承継とは、事業資金や設備、不動産など事業運営に必要不可欠な資産を後継者に承継させることを言います。個人事業主の場合は、個別の資産ごとに贈与や譲渡により承継させることになりますが、法人形態の場合は自社株式を承継させることで、会社の資産として包括的にこれらの承継ができます。
資産の承継には所得税(譲渡所得税)や相続税、贈与税などの税負担が伴いますので、税理士の専門家に相談して税負担を軽減するスキームを検討することで承継がスムーズに運びます。
・知的資産の継承
知的資産とは、取引先とのコネクション、組織力、会社のブランド、特殊技術や経営ノウハウといった、競争力の根源となっている会社の強みです。厳しい企業競争の中で、生き残っている会社には、必ずその会社特有の知的資産がありますが、目に見えない経営資源であるため、承継すべき経営資源として見落とされがちです。
まずは、現経営者が「自分の会社の強みは何なのか」、「成功の秘訣は何だったのか」を見極め、その知的資産を後継者に伝承して、さらに磨きをかけてもらうのです。
【知的資産の「見える化」が事業承継の成功の鍵になる】
見込みのある後継者が見つかり自社株式を承継させても、知的資産の承継に失敗すれば、元も子もありません。
知的資産は目に見えず、決算書にも現れません。現在の経営者自身も言葉にして表現することが難しい場合が多々あります。まず、知的資産を見える化し、それを次の経営者に伝承するというステップが必要となります。
政府もこの知的資産の見える化には積極的で、首相官邸のホームページにこのことが詳しくありますので、参照にするのも良いと思います。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/siryou01.pdf(内閣府:知的財産戦略推進事務局)
自社の強みを客観的に見直すという機会は多くありません。事業承継を考える機会に、自社の強みをしっかりと視覚化し、次世代の経営者へ向けて、明確にしていくことは、非常に大切なことです。
【事業承継のタイミングは年々遅くなってきている】
中小企業庁が平成28年の12月に公表した「事業承継ガイドライン」には中小企業の事業承継に係るさまざまな統計データが提示されています。
いずれのデータからも中小企業の経営者が高齢化しており、次世代への事業承継が遅れているということが分かります。
例えば、経営者の平均引退年齢の推移ですが、30年以上前にさかのぼると、平均して61~62歳で引退していましたが、最近になるほど平均引退年齢は高齢化しており、直近では70歳を超えてから引退することも珍しくなくなりました。
社長の平均年齢は2017年のデータで59.5歳で過去最高となりました。また、後継者ありは33.6%。ちなみに1993年は社長の平均年齢54.8歳に対して後継者あり55.9%でした。24年で平均年齢4.5歳上昇、後継者決定率は22.5%低下となっています。
引退年齢が高齢化している背景には、社会全体の高齢化や後継者不足の他、健康でアクティブな高齢者の増加など、さまざまな事情があり、一概に悪いことだとは言えませんが、事業承継に関して言えば、手放しに喜べる状況ではありません。
事業承継には5年から10年以上の期間が必要と言われており、事業承継の活動をスタートさせるのが遅れれば、遅れるほど、承継完了が後ろ倒しになり、現経営者の健康上のリスクも高まるためです。
【国も事業承継を応援している】
総務省の調べ(平成26年経済センサス-基礎調査)によると、中小企業は日本の企業の約99%以上を占めており、労働者の70%以上は中小企業に勤務しています。
正に、中小企業は日本社会を支えている存在であり、中小企業の事業が承継されず廃業が増えてしまうと日本社会の基盤に大きなダメージがあります。
そこで、中小企業庁をはじめとする国の各機関は中小企業の事業承継を後押しするために、さまざまな支援をしています。中小企業庁は平成28年12月「事業承継ガイドライン」を新たに発表しており、他にも様々な情報発信を行っています。
早めに事業承継に取り組んでおくというのは、さまざまな面から有利に、かつ失敗しないために、大切なことと言えます。
これから見ていきますが、さまざまな支援策を国も発表しておりますので、それらも情報取集しておく必要があるでしょう。