特別受益
2020/12/25
目次
【生前の贈与は相続分から差し引く】
家族などへ財産を渡す方法は、「相続」や「遺贈」だけではありません。生前に「贈与」という形で子どもに援助をすることも良くあります。
例えば、長女にはマイホーム購入資金を援助する、長男の開業資金を援助するというケースがそれにあたります。
このような相続人への生前の贈与は、遺産の前渡しとみなし、その贈与分も相続財産にプラスして遺産分割を行います。
被相続人の死亡時の財産だけで単純に分割すると、贈与を受けた者と、そうでない者との間における取り分に不公平が生じるからです。
これを【特別受益の持ち戻し】と言います。そして、特別な贈与を受けた相続人を【特別受益者】と言います。
特別受益の持ち戻しをした結果、相続分がゼロ又はマイナスになることがあります。
この場合、基本的にはもらい過ぎた分を返す必要はありませんが、遺留分を侵害している場合には、その分を返還する可能性も出てきます。(遺留分についてをご参照ください)
【”特別受益”にあたる財産とはどんなものか?】
特別受益にあたるもの
1)結婚や養子縁組のための贈与
持参金、嫁入り道具、支度金など。結納金や挙式費用は原則含まれません。
2)生計の資本としての贈与
住宅の購入資金、不動産の贈与、海外留学などの高額な学費、事業の資金援助、事業承継のための株式の贈与など。通常のお小遣いや生活費、学費は含みません。
3)遺贈で取得した財産
遺産分割前の財産の先取りと言えるので、相続人への遺贈はすべて特別受益にあたる。
前述のように、通常の生活費やお小遣いなどは含まれません。ただ、明確な基準はないので、何が特別受益に含まれるのかは、用途や金額のほか、各家庭の資産や生活の実態なども含めて総合的に判断します。
なお、特別受益は相続人に対するものだけが該当します。第三者への贈与や遺贈は特別受益にあたりません。
特別受益を考える上で、注意が必要なのは、贈与時の価値ではなく、相続開始時の価値で計算するということです。
不動産や株式など価額変動の大きい財産を持っている場合、大きく値上がりしていると、相続時の取り分が減ってしまうばかりか、他の相続人の遺留分を侵害してしまう可能性もあります。
また、贈与された不動産や株式を売却していても、現物があるものとして計算します。
購入資金を出してもらった住宅を既に売却してしまった場合も同様です。
【特別受益がある場合の相続分の計算例】
(生前)
2,000万円の土地を長女に贈与
(相続時)
・相続時の所有財産は5,000万円
・相続人は長男、長女の2人
・長女に生前贈与した土地が値上がりして現在3,000万円になっていた。
この場合、以下のようになります。
相続開始時の財産 50,000万円 + 長女の土地 3,000万円
<長女への贈与を含め、計8,000万円を2人で法定相続分通りに分割>
・長男の相続分 4,000万円
長男は法定相続分どおり、相続財産を1/2相続
・長女の相続分 1,000万円 + 長女の土地 3,000万円
3,000万円は生前贈与で相殺されるので、長女が相続時に受け取れるのは1,000万円だけ。
【特別受益の持ち戻しは遺言で免除できる】
特別受益は相続人にとっては公平な制度と言えますが、被相続人の立場に立てば、不公平も承知の上で、「特定の相続人に多くの財産をあげたい」という思いがあっても、おかしくはありません。
そこで、被相続人が遺言でその旨を表明すれば、特別受益の持ち戻しをしないで相続させることもできます。
これを、【特別受益の持ち戻しの免除】と言います。遺留分算定の基礎には含まれますが、特別受益についても、遺言通り故人の意思が尊重されることになります。
※注意点※
税制の場合は、相続前3年分の贈与を相続税の対象にしますが、それ以前の贈与については、法律上の不備がなければ、すべて相続財産から切り離します。
今回お伝えしているのは「遺産分割」の際の特別受益の持ち戻しです。ややこしいので、ご注意を。