【相続】自筆証書遺言
2021/07/19
目次
【自筆証書遺言とは】
自筆証書遺言とは、遺言者自身が遺言書を手書きで作成することによって成立する遺言をいいます。遺言者は遺言の本文・日付・氏名を自書した上で、押印を行う必要があります。
自筆証書遺言は、文字を書くことができれば、基本的にだれでも利用することができる簡易な方式です。公正証書遺言とは異なり、遺言書の作成に際して特別な費用を必要としないので、コストをかけずに遺言を作成したいと考える遺言者にとって、自筆証書遺言は経済的負担が非常に少ない遺言方式であるということがいえます。
ただし、自筆証書遺言にはデメリットもあります。まず、自筆証書遺言は簡易な方式であって、多くの人が選択する方式である反面、厳格な方式をよく理解せずに作成したため、遺言全体が無効になってしまうことが少なからずあります。
また、公正証書遺言とは異なり、遺言の作成にあたって公証人や証人などの他人が立ち会うことなく作成可能ですので、自分の死後まで遺言内容を他人知られたくないと考える遺言者にとって、自筆証書遺言は理想的な方式だといえます。しかし、内容を秘密にできる反面、相続人が遺言書の存在を知らないまま、相続人同士の遺産分割協議によって遺産が分配されてしまうおそれがあるなど、遺言者の意向が軽視される危険があります。
さらに、かつては自筆証書遺言を適切に保管する法制度が存在していませんでしたので、例えば、遺言者の死亡後に相続人になることが予定されている人(推定相続人)が自筆証書遺言を密かに発見し、内容を自己の都合がよいように書き換えたり(変造)、場合によっては自筆証書遺言自体を破棄してしまうことがありました。そこで、2018年の相続法改正により、2020年7月からは自筆証書遺言の保管制度を導入しました。
しかし、これにより自筆証書遺言の保管が義務付けられるわけではありませので、他人による変造や破棄などから遺言書を守るためには、やや手続きが煩わしいものの、公正証書遺言の方式を用いることが最適だといえるでしょう。
【遺言者本人による遺言書の自書が必要である】
自筆証書遺言の要件として、公証人や証人の立会いは求められていません。自筆証書遺言の要件として民法が定めているのは、遺言の全文・日付・氏名を遺言者が「自書」する(手書きをする)ことと、作成した遺言書に押印することです。したがって、自筆証書遺言が有効か無効かを判断するときは、遺言者本人が遺言書を自書したか否かがポイントとなります。
自筆証書遺言において自書を要求しているのは、筆跡から遺言者自身が記載したことが判明すれば、その遺言書は遺言者自身の考えに基づいて作成されたことを確認できるからです。
したがって、遺言者が伝えた内容を第三者が聞き取った上で文書を作成したような場合(他人が代筆をした場合)や、遺言者自身がパソコンなどを利用して遺言書を作成したような場合(手書き以外の方法で作成した場合)は、遺言者本人が遺言書を自書していないため、自筆証書遺言としては無効になります。
同様に、文書を作成せず、動画を録画するなどの方法で、遺言者自身が音声などのメッセージで遺言を行うことも、遺言者の筆跡との照合ができないため、自筆証書遺言としては認められません。その一方で、遺言者の筆跡との照合が可能であればよいため、複写の方法で作成された遺言書は、自書したものと認められます。
【相続法改正で自書の要件が緩和された】
自筆証書遺言の場合は、遺言者の生前の意向を確認する手段として、全文を「自書」することが要件として定められています。しかし、全文を自書することは、とくに高齢の遺言者にとって容易でないことがあります。徐々に死期が迫ってきている状態で、全文を判読しやすい文字で書くのを要求することも、遺言者に対して大きな負担になっています。そのため、かつてから自筆証書遺言を利用することをハードルが高すぎることが批判されていました。
そこで、2018年の相続法改正により、全文の自書の要件が少し緩和されました。具体的には、自書以外の方法で作成した財産目録については、すべてのページに遺言者が署名押印することを要求しています。具体的には、自筆証書遺言の全文について、遺産の詳細を明らかにする添付書類としての財産目録に関する事項に限って、自書以外で作成してもよいことになりました。
この改正により、パソコンなどを用いて財産目録を作成することができます。また、財産目録は遺言者自身が作成しなくてもよいため、他人に代筆を依頼することができます。それ以外にも、遺産が不動産の場合は不動産登記事項証明書(登記簿謄本)のコピーを添付することができます。
全文自書の要件の緩和は、自筆証書遺言を作成する上で、大きな労力を割かなければならなかった財産目録の作成について、自書以外の方式が認められ、これまでよりも比較的容易に自筆証書遺言の利用が可能になります。ただし、財産目録以外の全文や、日付・氏名については、依然として自書が必要であることに注意を要します。
一方、自書以外を可能にしたことで、財産目録を他人が書き換える(改ざんする)などの危険性が高まります。そこで、自書以外の方法で作成した財産目録については、すべてのページに遺言者が署名押印することを要求しています。財産目録が両面に渡るときは、表面と裏面の双方に署名押印が必要です。
【自筆証書遺言の保管制度の創設】
2018年の相続法改正に伴い、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立し、この法律に基づいて自筆証書遺言の保管制度が創設されました(2020年7月11日に施行)。遺言者は自筆証書遺言の保管を遺言保管所(法務局)に依頼することができます。保管された遺言書は、画像データ化され、遺言者の死後に、相続人や遺言執行者などの請求があれば、その画像データのほうが交付されます。
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