【相続】相続不動産の活用の仕方
2023/01/31
目次
【不動産を売る場合と活用する場合】
相続税を支払うために不動産を売りたい場合、少しでも高く売りたいと考えるのが普通でしょう。 では、相続する前の不動産も高く売ればよいのでしょうか? 実は、相続予定の不動産を売却したら、現金が増えてしまって、相続資産が増える、結果として相続税があ がってしまうこともあり得ます。 その場合は、別の不動産に買い替えることも検討してみるべきかと思います。 例えば、資産価値は高い都心の駅近くの中古マンションであればよいでしょう。 相続税評価額が現金で買った値段の 2 分の 1~4 分の 1 となります。 このような資産の組み換えは、節税対策にもなります。 このように、時と場合によって相続不動産の扱い方は異なっていきます。 では、不動産を売らずに活用する方法について、考えてみましょう。
【一般的な不動産の活用方法~「最有効使用」を判定】
まず一般的な不動産について、その経済価値に着目したアプローチによって説明します。
ポイントは、対象不動産の最も価値の高まる使用方法の判定です。
これを、不動産鑑定理論では「最有効使用」といいます。
どのような使い方をすれば経済合理性が最も高い のかを判定できるのです。
つまり、使い方が、自己利用目的(自用)なのか、他人に貸す目的(賃貸)なのかで二分されます。 さらに、その利用者が単身者向けかファミリー向けか、アパートかマンションかなど細分化されたイメージ が必要です。 特に、賃貸を想定した場合の標準的な貸室面積と想定賃料や、建築費などを考慮して、最も経済価値の高ま るプランを行うのです。 最有効使用について、具体例で説明しましょう。
【一般的な不動産の活用方法~「最有効使用」を判定 Ⅰ更地の場合】
Ⅰ更地の場合
まず、不動産鑑定の手法で、最有効使用について判定します。
対象不動産が住宅地域にあれば、戸建、アパート、などがその候補になりますが、論理的に判定できるので す。 まず、近隣の規模や形状の類似する戸建の売買事例をいくつか取集して、対象地の試算価格としての土地価 格を査定します。この試算価格 A(比準価格)を出します。
また、対象賃貸アパート建築を想定してその結果得られる土地の価格が査定されます。 この場合の試算価格 B(収益価格)を出します。 この二つの試算価格を比較して高い方が最有効使用であると判定されるのです。
つまり、例えば、駅から徒歩 30 分以上もあるような戸建住宅が立ち並ぶ住宅地域の場合、自用の戸建住宅 を想定した場合の試算価格 A の方が、賃貸の戸建住宅を想定した試算価格 B よりも高くなります。
よって自用の戸建住宅が最有効使用となります。 また、駅から徒歩 5 分以内の利便性のよい店舗やアパートの混在する地域であれば、賃貸需要も強く、試算 価格 B の方が試算価格 A よりも高くなります。
この場合は賃貸の戸建住宅とすることが最有効使用となります。 (ちなみに、試算価格 A と試算価格 B について最有効使用となる試算価格の方を重く比重をかけて、最終的 な鑑定評価額が決まります)
【一般的な不動産の活用方法~「最有効使用」を判定 Ⅱ空き家の場合】
空き家の場合、空き家が利用可能な状態であれば、現況のまま戸建住宅として販売する場合の価格を出しま す。
この場合の土地価格を試算価格 C とします。(売買価格の内訳として土地と建物に分けられるのです)
しかし、その空き家が通常の生活ができないぐらい劣化している場合、空き家を取り壊して、更地とした場 合の要領で、最有効使用を判定し、土地の試算価格を出します。
この場合の土地価格から、取り壊し費用を差し引いた価格を試算価格 D とします。 この試算価格 C と試算価格 D を比較して高い方が最有効使用として判断される訳なのです。
【収益不動産のプランニングから事業開始まで Ⅰ事業プラン】
では最有効使用の判定から、事業を実施するまでの手順はどうなるのか、説明します。
Ⅰ事業プラン
対象不動産の最有効使用を、前述の通り、判定します。 これにアパートなどの建築を伴う場合には、想定建物のプランニングが必要となります。 つまり、収益不動産を最有効使用と判定する際に、アパートかマンションか、ワンルームかファミリータイ プか、戸建賃貸か、などの比較のための想定建物プランを決めます。 ファミリータイプの賃料水準と標準的な間取りワンルームの場合の賃料水準と、標準的な広さなど、さらに 木造軽量鉄骨造か、鉄筋コンクリート造かによって建築費も異なってきます。
プランニングにあたって、建築士に依頼する場合もありますが、その建築業者の分野も偏りがあったりしま す。 ですから、中立公正なプランを不動産鑑定士が検証するのが重要です。 そして、資金調達する際の、土地と建築予定建物についての、担保評価額や銀行の融資の可否や金額など、 資金調達計画も検証しておく必要があります。
【収益不動産のプランニングから事業開始まで Ⅱ建築プラン】
Ⅱ建築プラン
事業プランを実現させるための業者選びとなります。 複数の建築業者の見積もりを取り、その内容や実績から、適切な業者を選択します。 建築業者は、大手ハウスメーカー(積水ハウスなど)、地元工務店、パワービルダー(飯田産業など)の三 タイプあり、建築単価が大きく異なります。
事業によって、高いコストをかけて高い賃料をとるのか、その逆なのか、検証が必要です。
高い建築費をかけたとしても、賃料が比例してあがる訳ではありません。 建築費のコストと、収益性のリターンの差額の手残りの現金を最大化させるプランが望ましいのです。
【収益不動産のプランニングから事業開始まで Ⅲ融資実行、建築、完成】
Ⅲ融資実行、建築、完成
融資が実行となって、建築が開始され竣工します。
通常、土地と、完成後の建物を担保として提供します。 建築費の支払いは、着工、上棟(中間)、引き渡しの三段階で支払うことが多く、その支払いの内訳は建築 業者との話し合いで決まります。
支払いのタイミングと、銀行融資のタイミングを注意深く設定することが重要です。
銀行融資の可否が事業の成否を決めてしまうことも多いのです。
工事請負契約書を取り交わして、工事金額が確定したら、金融機関に打診することをお勧めします。
【収益不動産のプランニングから事業開始まで Ⅳ活用開始(募集、賃貸開始)】
Ⅳ活用開始(募集、賃貸開始)
アパート建築であれば、新規賃借人の募集が開始されます。 その家賃収入で、運営費を支払い、ローンの返済など行って毎月の経営を行っていきます。
最終的にいくら現金が手元に残るかがとても重要です。
【収益不動産のプランニングから事業開始まで Ⅴ注意点】
Ⅴ注意点
建築業者の中には、家賃保証や建物管理契約など、建築後の管理まで申し出てくる業者もいます。 信用おける場合とそうでない場合もあるので要注意です。
余談ですが、家賃保証という契約で、あたかも 30 年間固定賃料を保証したかのようなセールスをしてきた ら要注意です。 家賃保証とか建物賃貸管理(サブリース)という言葉が出てきたら、契約書のひな型を見せてもらうように しましょう。 修繕費用負担や、リフォーム業者の選定などに注意が必要です。 また、契約条項にも書いていないルールがあります。
リフォーム業者を選べない、解約したくても違約金がかかる、家賃保証は固定金額の保証ではなく、いつで も引下げがされてしまう、といった落とし穴があります。 これは、「借地借家法」が借主を保護する前提となっているので、貸主はあくまで建物所有者ですが、建築 業者やその関連会社が建物管理をする名目で借主(ここではサブリース業者といいます)となり、それを入 居者にまた貸ししているというスキーム図が成立するからなのです。 この場合、借主であるサブリース業者が貸主である貸主に対して一方的に賃料を引き下げるようなケースが 全国で頻発しています(近隣の賃料相場などの経済情勢がかわったから下がるのであれば納得いきます が)。
【相続不動産の場合】
Ⅰ相続予定の不動産
一般的なケースと相続不動産の場合は何か違いがあるのでしょうか。 まず、相続予定の不動産についての活用方法をご説明します。 相続税の対象となる不動産は個人所有の自宅、アパート、駐車場などがあります。 この他に、会社が使用している社屋や工場、倉庫などを社長個人で保有していることもあります。 会社が使っていても、個人財産であれば相続税の対象となるので注意が必要です。 更地などの活用方法として、借金してアパート建築というセオリー的な節税方法があります。 メリットとして、借金や賃貸用途であることによる相続税評価減となることや、安定収入源が得られること です。 デメリットとしては、仮に事業計画や運営を誤ると、キャッシュフローが回らず、売却して借入返済すると いう事態にもなりかねないという点です。 借金することで債務が増え、相続資産を圧縮する効果がありますし、銀行も民間企業でノルマもあるので、 積極的に融資を行う姿勢はあります。 しかしよく注意してください。借金する場合、借入条件が重要です。 借入金額は多い方が、節税効果があるのですが、過度な借入や、返済期間の短い場合は、毎月の返済資金で 資金繰りが厳しくなってしまうというリスクがあります。 返済が苦しいので、不動産を売って返すとなってしまうのであれば、結果として現金を返済に充てることと なって資産が目減りしますし、本末転倒です。
Ⅱ相続で引継いだ不動産
あくまで、プロジェクト資金としての資金調達なので、事業のキャッシュフローがきちんと余裕をもって回 せるのか、事業計画を立案する段階での検証が重要です。 次に、相続で不動産を引き継いだ場合において考えます。
次の世代への相続対策が必要ないのであれば、一般的な不動産の活用法(既述)に従って、最有効使用を判 定して事業を行えばよいと思います。 不動産は個別性が強いので、不動産の売却か活用かの判断は、個々に細かく判断していくしかありません。 特に相続不動産については、まずは売るべきか活用するべきかの選択について、売却した際の経済的メリッ ト、相続対策の効果と、活用した場合の経済的メリットと相続対策の効果を総合的に比較して決定すること となります。 相続対策として行う不動産の活用について、不動産鑑定士や詳しい専門家の精査があれば、その妥当性も判 断でき、安心してアパート建築や借金を行うことも可能になるのだと思います。 いずれにしましても個人事情は異なります。 著名なハウスメーカーの典型的なセールスなどをうのみにしないことが重要です。 お客様の個別の事情をよく傾聴して、お客様の目線に立って、寄り添ったサポートをしてくれる専門家をパ ートナーとして選ぶと失敗しないのではと思います
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