【終活】【相続】相続する財産が少ない方が「争族」になりやすい
2021/04/21
目次
終活セミナーなどにお誘いすると、「うちはもめるほどの財産はないからあまり関係ない」「うちは相続財産なんてないから終活とかしなくても大丈夫です」というお話が多く出ます。
テレビドラマなどでは、多額の財産をどう分けるか?ということがテーマになっていることが多いため、相続問題というのは、財産の多い家に起きることだと思われている人も多いと思います。
(司法統計 令和元年度より作成)
しかし、実際には相続財産が少ない方が争いになっているのです。全国の家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件のうち、遺産額別の認容・調停成立件数(令和元年度)をみると、遺産額が1,000万円以下の事件が全体の34%、5,000万円以下が44%で、実に76%が遺産額5,000万円以下の事件となっています。
5,000万円以下の財産だと、自宅の土地と建物に加えて現金があれば5,000万円以下になることは珍しくないでしょう。また、1,000万円以下が34%ですから、持ち家の人だとかなりの割合になるはずです。
なぜ、相続財産が少ない方が「争族」になりやすいのでしょうか。
【遺産額が少ないと強制力が働かない】
相続税が発生する財産額の場合、相続を知った日の翌日から10カ月以内の申告期限までに遺産分割協議が成立していることが必要となります。
つまり、税務署に申告する際、相続人同士が遺産分割について合意した遺産分割協議書と実印、印鑑証明書を申告書に添付して提出することが条件となっています。このため、相続人同士で遺産分割について合意しなければならないという強制力が働きます。
また、小規模宅地の特例、相続税の配偶者控除等、申告を行うことで得られるメリットもあります。その際も遺産分割協議書は必須となります。
しかし、遺産額が少ない場合、特に基礎控除額よりも少ないと、こうした強制力は働きません。基礎控除額とは遺産額から差し引くことができる金額のことです。
基礎控除額=3,000万円+600万円×相続人の数
このような計算式で計算します。例えば、相続人が3人、遺産額が4,500万円の相続があったとします。相続人が3人ならば、3,000万円に600万円×3の1,800万円を加え、4,800万円が基礎控除となりますので、遺産額よりも基礎控除の方が大きくなりますので、課税対象額は0円となり、相続税は課されません。
このようなケースでは、「遺産分割協議を成立させなければならない」という外的要因が働きません。そして、遺産額が少ない場合、主な相続財産は被相続人の自宅の土地と建物となることが多くなります。しかも、財産が少ないがゆえに「争族」になることはないと考えてしまい、遺言を残していないケースが多くなります。遺言がなければ、遺産分割協議で話し合いとなり、一つしかな自宅の土地や建物の分け方を協議しなければならなくなるのです。
今は、法改正があり、配偶者には配偶者居住権がありますので、自宅の場合は争いは減ると思われます。しかし、子や兄弟姉妹だけの相続となると、遺産分割協議の段階で揉めるということは相変わらず続くことになるでしょう。
【土地と建物を「分割」する4つの方法】
分ける方法は4つあります。土地を物理的に分割する「現物分割」ができればよいのですが、土地の場合は分割が難しいケースも多く、建物がある場合、それを解体しなければならないという問題もあります。
売却して得たお金を分ける「換価分割」は分割しやすい面はあるものの、被相続人と同居していた相続人がいるような場合、その相続人は住み続けたいと考えるので、換金したい別の相続人と対立していしまいます。
こうした問題に対応するために「代償分割」という方法があります。住み続けたいという相続人が土地と建物を承継する代わりに、他の相続人に対して自身の現金やその他の資産などを支払うことで調整する方法です。しかし、この方法は承継する相続人に資力がなければ実現はできません。
もう一つは「共有分割」です。複数の相続人が一つの不動産を共同で所有する方法です。一見すると円満解決できる方法に思えますが、売りたい人とそうでない人で対立しやすく、次に相続が発生すると、相続の権利が承継され、さらに共有者が増えるということになります。そして、縁が遠い共有者が増えていけば、処分や管理にかかる意思統一が難しくなり、難しくなるという問題があります。
このように相続税がかからない程度の遺産額で、自宅が主要な相続財産という状況が重なると「争族」に発展する可能性が高まります。親が生きている間はもめることはありません。しかし、争族になったときには親はもういません。
【家族で話し合っておくこと】
相続が「争族」となってしまうのは、第一に遺言がないからです。ですから、財産額大きい、少ないにかかわらず、いやむしろ少ないから遺言を考えたことがないという人こそ、必要だといえます。
同居していた相続人は別居した相続人には内緒で現金を受け取っているのではないか、介護負担の有無や親からの支援の有無がきっかけで揉め始めることもあります。
大切なことは、まず親が終活を行い、自らの考えを整理し、そして生前から家族でコミュニケーションをとり、できる限り遺言を残しておくことが争族を防ぐポイントです。
民法では「遺産の分割は、遺産に属する物または権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態および生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」と記されています。
これは様々な事情、個々の状況等を勘案した上で、遺産分割をしていこうという意味だと思います。相続人にも事情があり、お互いにそれを理解しあっておけば、親の意思としても、「どのように分割しよう」というのも、公平感が出てくると思います。
親が元気なうちに終活を行い、財産を整理し、そして家族とコミュニケーションをとることがとても大切です。改めて、争族を防ぐのは、終活がその始まりだということがわかります。